Shibaのブログ

日々の読書や芸術鑑賞、旅行などの体験を記録するとともに、その中で感じたこと、考えたことを記述します。

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「恐らく、自分も何かしてみたいからでしょうね、幸福というもののために」――アルベール・カミュ「ペスト」を読む(3)【日日所感No.7】

どうでもいい話であるが、サルトルとカミュが決別した話は有名である。カミュはその後ノーベル文学賞を受賞したが、サルトルは賞に選出されたにもかかわらずこれを拒否した。 第一回、第二回と、カミュの「ペスト」を読解するという建前で、色々と語ってきた…

「不幸の時期にこそ、人々は真実に、すなわち沈黙に慣れるのだ」――アルベール・カミュ「ペスト」を読む(2)【日日所感No.6】

一体この恐怖と不安の収束は、いつになるんだろうか。そんな思いを、今世界の多くの人々が抱えているのではないか。特に日本では、政府与党の対応が国民のためにやっているのか彼等自身のためにやっているのかわからないようなものなので、今後も長引きそう…

「わからない。全く奇妙だ。だが、そのうち済んじまうだろう」――アルベール・カミュ「ペスト」を読む(1)【日日所感No.5】

新型コロナウイルスの世界的流行に伴って、パンデミック文学に注目が集まっていることは知っていたが、手元にそのような本はないし、わざわざ買ってまで読もうとは思わなかった。しかし、私のこの五畳半ほどの部屋の中にある500冊にも到達するであろう書…

「何になりたいのか?」ではなく、「何を望みたいのか?」――ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(河出書房新社):書評【日日書感No.2】  

『サピエンス全史 上』頭を抱えるサピエンス男性は、我々が犯した罪の重さを表すのか、はたまた、我々の未来への不安を示すのか……。 本書は、世界中で1000万部を超えるベストセラーとなり、一世を風靡した本である。流行した理由としては、恐らく内容が…

日本国憲法、その民主主義について【日日所感No.4】

梶田年『新憲法釈義』 以前、現代の日本のメディアは、大衆に無思考を浸透させている、というようなことを書いた。今回はそれに深く関係する問題として、日本国憲法について、その一つの主柱である民主主義に焦点を絞って今回は私見を述べたい。 まず、日本…

日本文学の価値づけは、未来の文学の歩みに懸っている――奥野健男『日本文学史』(中公新書):書評【日日書感No.1】

奥野健男著『日本文学史』中公新書212 本書は、日本近代文学を、明治初期の江戸時代の影響が濃い戯作文学から、戦後高度経済成長期の石原慎太郎や大江健三郎まで時代順に解説し、俯瞰的にまとめたものである。作家作品の背景にある文芸思潮の解説に特色が見…

長谷川櫂『震災歌集』を読んで【日日所感No.3】

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。 日本国内においても、緊急事態宣言が発令され、混乱が広がっている。混乱は、医療だけの問題に留まらず、社会制度や経済にも及び、先の見えない不安に煽られてか、人々の心の中もまた、荒みを見せ始めてい…

現代の諸創作物と人間的意識について(2)【日日所感No.2】

前回は、現代の創作物がより細切れになっていることを指摘し、ベンヤミンが指摘した百年近く前の状況より、さらに加速した思考停止型の芸術受容が行われているのではないかと述べた。今回は、そのような状況において、私たち受容者の思考感覚はどのようにな…

現代の諸創作物と人間的意識について(1)【日日所感No.1】

「現代の諸創作物と人間的意識について(1)」 『太陽のない街』における工夫、細切れの章立てや視覚的イメージの積極的導入はブレヒトの演劇やシュルレアリスム芸術に影響されたもので、また読者のプロレタリアに向けて、疲労して帰ってきた後でも楽に読め…